[My Romance]My Romance

【解説】──ロマンティックな小道具などいらない

 これはロジャーズ/ハートの’35年の作品で、同年11月の、ミューズィカル【Jumbo】のなかに使用された曲だ。そのなかではドナルド・ノヴィス Donald Novis とグロリア・グラフトン Gloria Grafton によって歌われた。この二人は当時売れっ子のビグバンド歌手で、歌えない映画スターの声もよく吹き替えていた。このミューズィカルはロジャーズとハートがハリウッドからブロードウェイへの復帰第一作で、二人は映画よりも制作に細かく関与できるブロードウェイのミューズィカルの方を好んだようだ。’40年代になると自分でプロデュースして、脚本や演出にまで口を出し、作詞曲家を制作過程からはじき出してしまう旧来の方式を否定するほどだった。

 さてこれはジミー・デュランティ Jimmy Durante が主演し34万ドルもかけたビリー・ロウズの大作だったが、233回とそれほど長続きはせず、その費用の半分しか稼げなかった。といっても同年9月の【At Home Abroad】が198回、10月の【Porgy and Bess】が124回、【Jubilee】が169回と、この年はミューズィカルがとくに不調の年だったようだ。ノヴィスとグラフトンの二人がこの曲を歌ったポール・ホワイトマン楽団のレコードは翌年のチャートで18位までしか行かず、一番大きなヒットは’90年のカーリー・サイモン Carly Simon のCDだそうで、なぜそうなのかは良くわからない。このミューズィカルには[Little Girl Blue]も入っていたのでそちらも参照されたし。またこのその映画化『Jumbo』(MGM, ’62)ではドリス・デイがこの曲を歌った。

 ハートは都会的で洗練された作詞家の代表だが、ロジャーズは「しかしラリィ(ハート)が単純素朴な生活にも魅了されていたことを見過ごしてはこまる。[There’s a Small Hotel]や〝our blue room far away upstairs 二階のおくの僕らの青い部屋〞([Blue Room])といった表現にある自然で素朴な美への共感や、[My Romance]のなかの二人の人間が本当に愛しあっているならありふれたロマンティクな小道具などいらないと考える彼の態度なども忘れないでほしい」と、かつて季刊誌《Dramatists Guild Quarterly》に書いている。


【補遺】──音階通りの歩調で書く

 この曲はヴァース12小節、コーラスABAC32小節という構成になっている。アレク・ワイルダーはヴァースを「意外にも、がっかりさせるほどつまらないもので、ロジャーズのヴァースでは珍しくコーラスになんら関連性をもっていない」と評し、コーラスは「ロジャーズの曲作りの至芸のなかでは端の方に位置するだろうが、それでも称賛に価するほどよく書けている。Aのメロディは二度ずつ動いていき、音階通りの歩調で書いていく step-wise writing の典型的な例だが、Bのひろい音程と巧妙な対照を見せている」と書いている。ワイルダーはメロディがドレミファとかソラシドと音階通りに動くことを厳しく批判し、その非難の仕方はまったく尋常ではなく、いつも驚かされるほどだ。だが著名な作曲家を微に入り細に入り分析して批判することのできる人は、多分この人をおいてほかにいないほどその曲分析は確かで、もう50年近く前の著作だが今だに競合する本も出てこない。曲の分析となるとまずこの人の本を開いて、そこから原稿書きが始まるというのが、私にとっても決まった手順となってしまった。その彼の本を参考までに以下に示してみよう。

American Popular Music: The Great Innovators, 1900–’50, by Alec Wilder (1907–’80) ed. James T. Maher. (New York: Oxford Press, 1972)

 アンドルーズ・スィスターズはミディアム遅めのテンポで、1コーラス半を歌いぱなしてエンディングに入っている。それは軽いスウィングだが、ドリス・デイは弦も入ったオーケストラをバックにバラードにしている。ほとんどルバートで1コーラスだけで終えている。カーメン・マクレイもスローの4ビートで1コーラス半を歌いっぱなしている。初期のものであまり変化していないが standing by を passing by と歌っている。モーリーン・オハラはオーケストラと速めのバラードで、1コーラス、間奏のあとBの終りからまた歌っている。素晴らしい声と歌だが完全にクラスィクの唱法と感覚でジャズっぽさはまったくない。ヴィク・ダモンはハープシコードやフルートの伴奏がついたバラードで1コーラスだけ歌っていて、これもややクラスィカルな雰囲気の歌だ。メル・トーメはオーケストラとともにボレロ風バラードで歌っている。それは1コーラス半を歌いっぱなして終えている。アカペラのスィンガーズ・アンリミティドはルバートで1コーラス歌い、転調してCから入り終えているが、ハーモニーが激しく変遷し、うっかりすると転調が判らないほどだ。エラ・フィツジェラルドはミディアム・スローで、飾り気なく素直な歌い方だ。1コーラス、間奏、後半と歌っている。’54年のリー・ワイリーはミディアム・スローの4ビートで、枯れた味の歌になっている。1コーラス、間奏、Cと歌ってこれも簡素な終りかただ。Vディスク(戦争中に米軍から兵隊用に出されたレコード)のフランク・スィナトラはミディアム・スローで、女性コーラスをまじえながら2コーラス歌っている。彼は《1949 Lite Up Time Show》でもドロスィ・カーステン Dorothy Kirsten と二人で歌っていて、アレンジもほぼ似ている。メイヴィス・リヴァーズはバラードで1コーラス歌ったあと、速い6/8拍子でスウィングして、さらに1コーラスずつ歌、アドリブ、歌とすすめている。テンポの速い唱奏はビル・エヴァンズの演奏あたりから散見されるようになってきたものと思うが、歌は圧倒的にバラードとしての解釈が多いようだ。ヴァースを歌っているものは残念ながら私は聴けなかった。

Art Blakey with Keith Jarrett (1966), Chris Botti (2004), Dave Brubeck (1952), Sammy
Davis Jr., Bill Evans (1961), Roberta Flack, Debbie Gravitte, Mario Lanza, Warne Marsh (1983), Cybill Shepherd, Carly Simon, Ben Taylor, James Taylor, Tuck & Patti (1988), Aaron Tveit (2013), Ben Webster with Hank Jones (1962), Jessica Williams (1977), そのほかこれらの人がやっていて、上は米 Wikipedia から下は AllMusic などのサイトから引用してみたが、全部は載せられずまだまだほかにも多い。

Don Friedman, Lew Soloff, Tony Bennett, Gene Ammons, Houston Person, Sarah Vaughan, Hampton Hawes, Ruby Braff / Ellis Larkins, Ella Fitzgerald, Carmen McRae, Wes Montgomery, Dinah Shore / Frank Sinatra, Sadao Watanabe, Sammy Davis, Jr., Chico Hamilton, Paul Chambers / Red Garland / Arthur Taylor, Roland Hanna, Paul Weston, Andy LaVerne, The Singers Unlimited, Sylvia Syms, The Andrews Sisters, Billy May, The Dave Brubeck Quartet, Kenny Rogers, Claude Williamson Trio, Clark Terry, Beegie Adair, Jack DeJohnette / Keith Jarrett, Gary Peacock, Eddie Higgins Trio, Doris Day, Vic Damone, Etta Jones, Joe Williams, Warren Vaché, Junior Mance, Scott Hamilton, Mel Tormé, Rosemary Clooney, Milt Jackson Quartet, The Supremes, Oscar Peterson, Art Farmer, Archie Shepp, Keiko Lee, George Shearing, Cal Tjader, Gary Burton, Bill Evans Trio, Little Jimmy Scott, Clark Terry Quintet, Benny Carter, Buck Clayton / Ben Webster, Harry "Sweets" Edison / Ben Webster, Lee Wiley, McCoy Tyner Quartet, Michael Feinstein, The Platters, Gonzalo Rubalcaba, Wynton Marsalis, Vic Damone. John Abercrombie / Larry Carlton / Larry Coryell / Tal Farlow / Lorenz Hart / John Patitucci / John Scofield