Episode #009 いたずらっ子の首謀者ファン・ティゾル

──みんなのなかでも一番悪いいたずら屋はファン・ティゾルだった。たまにしか彼に会わない人は信じられなかったろうね。彼はいつも下らないことには無関心そうな超然としたとこがあったけど、じつは僕らいたずらっ子の首謀者だったのさ。

 よく[Mood Indigo]を演奏したが、その最初のコーラスはトロンボーンのトリッキィ・サム(Tricky Sam Nanton)とトランペットのアーティ・ウェットソル Artie Whetsol とクラリネットの僕の三人のハーモニィだったから、僕らはステージの前に出ていってやった。あるときステージが凄く小さくて、カーテンがそれをもっと狭くしていたので、僕ら三人はぴったりとくっついて演奏していたが、その僕らの真後ろでティゾルは匂い爆弾を破裂させたんだ。天井にはクリーグ・ライト(舞台照明用のアーク灯)がごってりついてて、僕らの顔を照らしてた。後ろでなにが投げられたかなんてこっちは知らないよ。すぐに僕はくさい匂いに気づいた。それで僕はウェットソルを見たら、ウェットソルも僕を見た。次にトリッキィを見ると、彼はくすくすやり始めたよ。しかも匂いは段段ひどくなっていくんで、それにつれてトリッキィと僕のくすくす笑いもひどくなっていったんだ。

 アーサー(Arthur=Artie)・ウェットソルはとりすました男で、いつも洒落のめしていたよ。チャーリィ・チャップリンの映画を見たって彼は笑いもしなかったね。

 トリッキィと僕はもう笑いには降参しちゃって、ステージの後ろの席の方にもどったけど、ウェットソルはそうはしなかった。彼はソロを吹きつづけたよ。あとでそれがティゾルの仕業だということを僕らは知ったけど・・・そのとき僕らはすべてを悟ってそこでやめるべきだった。僕らは彼に報復したんだ。次のブロックにおもちゃ屋があって、翌日そこで僕らはカユイカユイ・パウダーを買ったのさ。控室に早く行って、これをティゾルのタクスィードに全部かけた、シャツにもどこにもさ。ホッジス(Johnny Hodges)が率先してやったが、事実上バンドのみんなが加わってやった。みんないたずらにもううんざりしてきていたし、そのおおもとのせんどうしやはいつもティゾルだったから、僕らは彼をうんと懲らしめようと思ったんだ。

 僕らがステージにのぼると、クリーグ・ライトがティゾルに当たっていた。みんな彼をじっと観察していたけど一曲目の半分まできたとこでパウダーが効き始め、ティゾルがもぞもぞと動き始めたんだ。彼が汗をかき始めるとかゆみはもっとひどくなり、数コーラスいくともうどうにもならなくなった。その曲が終わるのも待てずに彼はステージを降りていった、みんなを罵りながら。彼はこれをジョークとはとらなかったし、これを面白いとも思わなかった。でこれが彼をいたずら癖から足を洗わせることになったんだ。首謀者が足を洗ったので、バンドのなかのいたずら熱もそれから冷めてしまったよ。